IL SEICENTO
Performance Practice
of 17th-century
Vocal Music
「イタリア古典歌曲」の挑戦
「イタリア古典歌曲」とは、19世紀の終わり、A・パリゾッティという人物が編纂して出版した17~8世紀の声楽曲のアンソロジーと、それに追随した類似の出版物を指します。ヨーロッパからアメリカ、日本、韓国まで、様々な出版社が現在もこういった曲集を販売しています。そこに寄せられた曲のうち、例えばペルゴレージの『ニーナ』、ジョルダーノの『カロ・ミオ・ベン』などは往年の名歌手カルーソーやパヴァロティの録音から一般にも有名で、おそらく貴方もお聞きになったことがあるでしょう。また、日本では収録曲のいくつもが、音楽大学の入試課題曲として使われてきており、この曲集は声楽を志す人ならば必ず一度は手に取る、いわばバイブルといっても良いものでしょう。しかしこの曲群にはいくつもの問題が潜んでいるのです・・・!
確かにパリゾッティは彼の時代には忘れ去られたレパートリーを掘り起こし、蘇らせたという功績はありました。しかし、彼の方法論は今から考えるとかなりいい加減。楽曲の出典をきちんと調べずに、実際に曲を書いたのではない人を作曲家として名前をあげたり、挙句の果てには自分の書いた曲にバロック時代の作曲家の名前をかぶせてそっと歌曲集に忍び込ませたり(!)。
そしておそらく最大の問題は、この歌曲集に収録されているのはいわゆるバロック時代に作曲されたものなのに、ピアノ伴奏で演奏するために19世紀の、いわゆるロマン主義的な編曲が施されていることでしょう。チェンバロやバロックチェロを伴う形でバロック声楽曲を歌い、聞いてきた私たちには違和感が否めません。一体、今、「イタリア古典歌曲集」をどう捉えればよいのでしょうか?
『アリアンナ』の秘密
以上のような「イタリア古典歌曲集」からの『挑戦』を受け、セイチェントVではこの歌曲集が持つ問題に真摯に迫ってみようと思います。イベントは講義とマスタークラスの2部で構成。まず、講義では「イタリア古典歌曲集」の初端に現れるモンテヴェルディ作曲『アリアンナの嘆き』(1608年)をケーススタディとして、『アリアンナ』やそれに類する作品が17世紀初頭どのような意味を持っていたのか、そしてその意味が時代と共にどのように変化してきたのか、そして21世紀の今、アリアンナをどのように『蘇らせ』ればよいのかを考察します。その過程で、今まで知られて来なかったモンテヴェルディや彼の音楽家仲間たちと、中世の文豪『神曲』で名高いダンテとの意外な結びつきも浮上!最新の学術研究を基礎としながらも、まるで推理小説の謎解きのような面白さ満載の講義です。
第2部では、公開レッスンをお受けになる方々に実際に「イタリア古典歌曲集」のレパートリーを歌って頂き、聴衆の皆さんとご一緒に演奏解釈の方法論とふさわしいテクニックを模索していきます。特にここではこういったレパートリーを「どう演奏するべきか」「どう聴くべきか」ではなく、「どのような色々な可能性があるのか」というアプローチから前向きな試みをしていきます。そのため公開レッスンには初学者から受験生、プロの歌手まで経験、年齢を問わず、幅広い層からの応募をお待ちしております。古楽器と歌った経験のない方、大歓迎いたします!
「難しいのかな?」「怖そうかも」・・・そんなご心配は全くご無用です。これまでの「セイチェント」イベント同様、史料、画像をたっぷりお見せしながら、耳にも目にも楽しい「知的エンターテインメント」をご提供します。(イベントはお茶とお菓子つき。またお昼休みを挟みますので京都のお弁当もご案内します。お腹にもうれしい一日です!)